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東京高等裁判所 昭和41年(く)85号 決定 1966年6月06日

少年 I・G(昭二三・八・一一生)

主文

本件抗告を棄却する。

理由

本件抗告の趣意は、附添人鹿島恒雄作成名義の抗告申立書に記載されたとおりであるから、これを引用し、これに対し当裁判所は次のとおり判断する。

抗告の趣意第一点について。

論旨は、要するに、原決定は少年に対し中等少年院送致の処分をしたが、少年の本件非行は軽微なものであって、少年の前歴を考慮に容れても、成人の刑事事件とすれば懲役の実刑に値しないものであるから、ひっきよう原決定は少年なるが故に不当に少年の自由を剥奪するものであって、法の下の平等を定めた憲法第一四条第一項に違反し、右の違法は決定に影響をおよぼすから取消しを免れないというのである。

按ずるに、懲役と少年院送致の保護処分はその目的、本質を異にし、人の自由を制限する面において共通する部分があるとしても、これを彼此対照してその軽重を論ずべき筋合いのものでなく、しかも原決定が少年に対し中等少年院送致の処分をしたのは、専ら少年の健全な育成のためその非行度、資質、環境その他諸般の事情を勘案し、収容保護の処分を必要とすると判断したことによるのであって、憲法第一四条第一項所定の事由により殊更少年を差別待遇したものではないから、何ら同条に違反するところはない。所論憲法違反の主張は当らない。

抗告の趣意第二点について。

論旨は、要するに、(一)、原決定は少年を収容保護する必要がある旨認定したが、それは未だ少年の保護環境が整えられていないと判断したためと思料されるところ、少年には両親が揃っていて、少年の心情、保護司の協力も考慮すれば十分保護の能力を具えており、また、(二)、原決定は少年を無職と認定したが、少年は従前の勤務先を無断欠勤していただけであって、未だ正式に雇傭関係は終了していない。原決定には以上の諸点において決定に影響をおよぼす重大な事実の誤認があり、取消しを免れないというのである。

按ずるに、一件記録によると、原決定が認定した犯罪事実として引用する司法警察員作成の昭和四一年四月一四日付および同月一五日付少年事件送致書記載の各犯罪事実を肯認するに十分であり、原決定には何ら犯罪事実の誤認は存しない(なお、所論保護者の保護能力、少年の職業の点については後記説明のとおりである)。

抗告の趣意第三点について。

論旨は、原決定が少年を中等少年院に送致したのは、処分が著しく不当であるというのである。

よって、少年保護事件記録および少年調査記録を調査して考察すると、本件は、少年が、(一)、昭和四一年三月○○日被害者○田○永に対し同人が少年の弟をたしなめたことに因縁をつけ、口論の末喧嘩となり、スコップで数回同人の腰部、右足部を殴打し、更に同人を応援した加○勇の顔面を手拳で二、三回殴打する暴行を加え、(二)、同月××日○A○とともに喫茶代を借りようとして知人の寮室を訪れたが、同人が不在であったため、同室していた未知の被害者○川光敏から借金しようとして断られるや、Aと意思相通じ右○川から金員を喝取しようとして、少年において靴穿きのまま室内に上り込み、○川に対し、「一五〇円貸せ、文句があるか、やるなら表に出ろ」などと申し向け、同人を手拳、衣紋掛で殴打し、かつ、靴穿きのまま足蹴にし、更に室内にあった庖丁を手にして嚇し、Aにおいても木刀を持ち出すなどして、右要求に応じなければ更に暴行を加えかねない気勢を示して脅迫し、○川をその旨畏怖させたが、同人が大声で救いを求めたためその目的を遂げず、その際右暴行により同人に全治一週間を要する左前額部擦過創、左鼠蹊部打撲傷の傷害を負わせたというのであり、右(一)の犯行の熊様、犯行に至る経緯、(二)の犯行の動機、原因、手段、態様に鑑みると、犯情が悪く、なお、少年は先に昭和三九年一一月五日窃盗、恐喝、同年一二月三一日恐喝未遂、軽犯罪法違反の罪で補導されたうえ、昭和四〇年七月八日保護観察に付され、未だ保護観察中の身であるのに本件各犯行を重ね、しかも右(二)の犯行は(一)の犯行により警察の取調べを受けた僅か二日後になされたものである。これより先少年は中学校在学当時から好ましからざる仲間に親和し、昭和三九年四月高等学校進学の頃から急速に不良化し、近隣の不良と交友して夜遊びに耽り、遂に昭和四〇年四月同校二年に進級すると同時に退学し、その後職場を転々として安定せず、最後に配達員として就職した○府農協プロパン部も遅刻のことで注意を受けたことから昭和四一年三月中旬以降無断欠勤を続け、事実上退職の状況となり、怠惰、享楽的な生活態度が固定化し、本件犯行当時は一層非行が深化する過程にあり、非行に対する反省が乏しく、再非行のおそれのある状態に立ち至っていた。以上のような非行の状況に鑑別結果によって認められる少年の資質、殊に、社会適応能力が乏しく、劣等感から粗暴に走る傾向があることを考え併せると、資質の改善の急務であることが窺われる。しかして、少年は農業を営む家庭に六子の第五子として生育し、両親は健在であるが、少年に対し従来日常的指導が放漫に過ぎ、本件後少年に対し関心を強めたものの、いささか庇護的に堕して具体的方策を欠き、少年の資質を思うと保護の能力が乏しい憾みのあることが窺われ、適切な指導を期待し難いといわざるを得ない。以上の事実に徴すると、少年をこのまま在宅処分とするにおいては、再非行に陥らせるおそれのあることが窺われ、寧ろこの際少年を収容保護し、規律正しい生活訓練の下に社会適応性を涵養し、その適性を発見して、自信をもって行動する意欲を恢復させるのが適切な措置であると思料される(申立人は被害者との示談、被害者の宥恕をいうが、本件の如き少年の処遇を決するについては、右の点は必ずしも重要な要素となるものとは認められない。)さすれば少年を中等少年院に送致する処分をした原決定は相当である。

以上、本件抗告は理由がないので、少年法第三三条第一項、少年審判規則第五〇条により本件抗告を棄却することとし、主文のとおり決定する。

(裁判長判事 松本勝夫 判事 海部安昌 判事 石渡吉夫)

参考

再抗告審決定(最高裁 昭四一(く)四七号 昭四一・七・二七第一小決定棄却)

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